第124章

葵はオフィスの革張りチェアに深く腰掛け、細い指先でその黒い金属の薄片をそっと撫でていた。

汚れはすでに拭き取られ、鋭い縁と冷たい光沢を放つ表面が露わになっている。裏面に刻まれた極小の隠し紋様が、照明を反射して皮肉なほどに眩しかった。

それは、彼女と和也の間だけで使われていた、秘密の暗号サインだった。

ふっ、と冷たい笑みが漏れる。薄片を硬いデスクの上に放り投げると、チリンと甲高い音が響いた。

「生きてるなら生きてるって言えばいいのに。神様気取りのつもり?」

低く呟くその瞳の奥に、底知れぬ怒りの色が閃く。

和也というあの狂人が、暗闇に潜んで守護者ごっこを楽しみたいというのなら――少々...

ログインして続きを読む